File #03 「売家」の看板が、外された日

夕暮れ、売り出し中の空き家の一室だけに灯りがともる(イメージ)
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見慣れない車が、充電されていた

2024年4月25日、長崎県大村市。売り出し中の空き家を管理する不動産会社の従業員が、いつものように見回りに訪れた。

敷地に、見覚えのない電気自動車が停まっている。しかも、充電中だった。

電気は止めてあるはずの家である。玄関先に立てていた「売家」の看板は消え、代わりに知らない名前の表札が掛かっていた。中には家具が運び込まれ、生活の気配がある。

誰かが、この家に住んでいた。

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売却中の家には「無人の期間」が必ず生まれる

空き家を売りに出すという行為は、裏を返せば「この家は今、誰も住んでいません」と公に知らせることでもある。看板、ポータルサイトの掲載、外から見える空室の気配。買い手に届けたい情報は、そのまま第三者にも届く。

内覧に備えて施錠され、定期的に管理されている物件でも、人がいない時間のほうが圧倒的に長い。見回りの頻度が月に数回であれば、その間隔は外から観察すればおおよそ見当がつく。「管理されている空き家」と「無防備な空き家」の差は、侵入者にとって思うほど大きくない。

大村市の事件は、その隙間で起きた。

1か月間の「占拠」——ライフライン契約が通ってしまった

起訴状などによると、25歳の男は2024年3月28日から4月25日までの間、この2階建ての空き家に侵入し、占拠した。「売家」の看板を外して自分の表札を掲げ、報道によれば鍵の交換を業者に依頼していたとされる。家具を運び込み、エアコンを4台設置。そして電気・ガス・水道を、すべて自分の名義で契約した。

ここに制度の盲点がある。ライフラインの開栓手続きは、原則として「その家に住む人」からの申し込みで進む。契約者がその不動産の所有者かどうか、あるいは正当な借主かどうかを、電力会社やガス会社が確認する仕組みは基本的にない。名義と支払い方法さえ整えば、他人の家でもインフラは開通してしまう。男の生活が約1か月間成立したのは、この構造ゆえだった。

男は約1週間前、諫早市の別の空き家にも侵入していたとして、邸宅侵入の罪でも起訴されている。

適用されたのは不動産侵奪罪(刑法235条の2)。他人の不動産を占拠して自分のものにしてしまう行為に対する、いわば「不動産の窃盗罪」で、法定刑は10年以下の懲役。罰金刑はない。戦後の混乱期に土地の不法占拠が横行したことを受け、1960年に新設された条文だ。

なお、これは日本だけの話ではない。米国では偽のリース契約書を掲げて他人の家に居座る「スクワッター」が社会問題化しており、ジョージア州ではアトランタ都市圏だけで約1,200戸が占拠されたと報じられ、州法改正の動きにまで発展した。

法廷で明かされた結末——2,970万円の買い取り

2024年7月、長崎地裁で開かれた初公判で、男は起訴内容を全面的に認めた。検察側の求刑は懲役1年6か月。同年9月、懲役1年6か月・執行猶予3年の判決が言い渡された。

この公判で明らかになったのが、事件のもうひとつの結末である。男の父親が管理会社に直接謝罪したうえで、現場となった空き家を、事件前の売り出し価格と同じ2,970万円で買い取っていた。

売主の立場で考えてみてほしい。家は「売れた」。しかしそれは、市場で買い手が見つかったのではなく、加害者の家族が買い取るという形でしか決着しなかった売却だ。占拠された家が、その履歴を抱えたまま通常の市場でどう評価されたかは、想像に難くない。

売却期間が長引けば長引くほど、「無人の窓」は開き続ける。この事件が突きつけるのは、その単純な事実である。

教訓と選択肢——「無人の窓」を短くする

ここからは、空き家を所有するあなたの側の話です。この事件から引き出せる備えは、次の3つに整理できます。

1. 施錠「だけ」で守れると考えない

大村市の物件も施錠はされていました。それでも侵入され、鍵は交換され、表札まで変わっていた。物理的な鍵は時間稼ぎにはなっても、無人の家を守り切る手段にはなりません。

2. 「変化に気づく仕組み」を持つ

この事件の発覚のきっかけは、管理会社の見回りでした。定期巡回、郵便受けの確認、看板や外観の変化のチェック。自分で通えないなら、空き家管理サービスや、売却を任せる不動産会社の巡回頻度を確認しておくこと。「気づくまでの時間」を縮めることが、被害を最小化します。

3. 最大の防御は、売却を長引かせないこと

巡回も施錠も、無人期間が続く限り「窓」を狭めることしかできません。窓そのものを閉じる方法は、ひとつだけ。早く、適正な価格で売り切ることです。相場から外れた値付けで1年売れ残る家と、適正価格で3か月で売れる家とでは、リスクにさらされる時間が4倍違います。

あなたの空き家は、大丈夫ですか

売却期間を短くすることが、空き家を守るいちばん確実な方法です。まずは、あなたの家がいくらで売れるのかを知ることから始めてみませんか。

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※本記事は報道等の公開情報をもとに、一部の情景を再構成しています。個人が特定されないよう情報の一部を省略しています。

出典(いずれも取得日 2026-07-02。配信元リンクは執筆時点で終了しており、検索エンジン経由で内容を確認)

  • NBC長崎放送「空き家で電気・ガス・水道を契約し生活していた25歳男…なぜバレなかった?犯行の背景に《盲点》」2024年7月配信 https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/nbc/region/nbc-1277416
  • NBC長崎放送「『売家』看板外し電気・ガス・水道を契約《空き家》に住み着いた25歳の男 犯行現場を2970万円で買い取ったのは…法廷で明らかになった家族の苦悩」2024年10月頃配信 https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/nbc/region/nbc-1506182
  • Fox News “Georgia homeowner’s rental property seized by squatters” 2024年3月3日 https://www.foxnews.com/media/georgia-homeowner-rental-property-seized-squatters-caring-sick-wife-frustrating
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