親が住んでいた実家が空き家になった。火災保険は親が掛けていたものがあるから、そのまま継続しておけば大丈夫——実は、これが空き家の保険でいちばん多い誤算です。
空き家の火災保険には、住んでいる家とは違うルールが3つあります。
- 住宅用の火災保険には、原則入れない(空き家は「一般物件」扱いになる)
- 地震保険は、法律上の理由で付けられない
- 空き家になったことを保険会社に伝えないと、保険金が支払われないおそれがある
この記事では、この3つを正確に理解したうえで、「では空き家はどんな保険に入れるのか」という現実的なルートまで解説します。
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空き家は「住宅物件」ではなく「一般物件」— 火災保険の物件区分
火災保険の世界では、建物は用途によって区分されます。人が住んでいる専用住宅・共同住宅は住宅物件、店舗や事務所・倉庫など住宅以外は一般物件です。
そして、誰も住んでいない空き家は、原則としてこの一般物件に区分されます。住む人がいない建物は、保険の上では自宅というより「無人の建物」として扱われる、ということです。
一般物件になると、次のことが変わります。
- 各社の住宅向け火災保険(「すまいの保険」系の商品)は原則として契約できない。東京海上日動・三井住友海上・損保ジャパンはいずれも公式FAQで空き家を引受対象外としています。ただし3社とも、別荘など季節的に居住し家財が備え付けられている建物は例外です。さらに三井住友海上は、転勤に伴う一時的な空家や賃貸入居者を募集中の物件など「空家である期間が一時的なもの」も契約可能としており、3社の中では引受範囲が広い点に注意してください
- 契約するなら店舗・事務所向けの一般物件用(企業向け)火災保険になり、保険料は住宅物件より割高になるのが一般的です
- 後述のとおり、地震保険が付帯できなくなります
例外: 「住宅物件」とみなされる空き家もある
すべての空き家が一般物件になるわけではありません。次のようなケースは、住宅物件として扱われる余地があります。
- 別荘など季節的に居住し、家財が常時備え付けられている建物
- 転勤などによる一時的な空き家(戻って住む予定がある、賃貸の入居者を募集中、など)
ただし、どこまでを住宅物件と認めるかの線引きは保険会社ごとに判断が異なります。「◯ヶ月空けたら一般物件」という一律の公的基準はないため、自分のケースがどちらに当たるかは契約している保険会社への確認が必要です。
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空き家になったら保険会社への連絡が必須 — 黙っていると保険金が出ないおそれ
見落とされがちですが、ここがいちばん実害の大きいポイントです。
建物の用途が変わること(住居として使っていた建物が空き家になること)は、火災保険の約款上の通知事項にあたります。保険法にも、危険増加を故意または重大な過失で通知しなかった場合、保険会社が契約を解除できる旨の規定があります(保険法第28条・第29条)。
つまり、住んでいた家が空き家になったのに保険会社に伝えないまま住宅用火災保険を続けていると、いざ火災が起きたときに保険金が支払われなかったり、契約を解除されたりするおそれがあります。「保険料を払い続けていたのに、空き家だったことを理由に支払われない」——これが最悪のシナリオです。
空き家になることが決まったら、まず契約中の保険会社に連絡してください。その結果、住宅用のままでは継続できず一般物件用への切替えを案内されることもありますが、それは「無保険で火災を迎える」よりはるかに良い状態です。
相続した空き家は「名義」と「空き家化」の両方を伝える
親の家を相続したケースでは、もう一段の注意が必要です。
契約者が亡くなっても火災保険は失効せず、契約は相続人に引き継がれます。ただし名義変更をしないままだと、保険金請求の際に戸籍謄本一式や遺産分割協議書の提出を求められ、支払いまで大きく時間がかかります。
そして名義変更の際には、建物が空き家になっている事実もあわせて伝える必要があります。名義だけ変えて空き家化を伝えないと、前述の通知義務の問題がそのまま残ります。
空き家は地震保険に入れない — 法律で対象が決まっているから
地震保険に入れないのは、保険会社が渋っているからではなく、法律上の理由です。
地震保険は「地震保険に関する法律」に基づく公的な性格の強い制度で、政府が再保険を引き受ける代わりに、対象が「居住の用に供する建物」と生活用動産(家財)に限定されています(同法第2条)。被災者の生活再建を支えるための制度なので、人が住んでいない建物はそもそも対象外なのです。
したがって、
- 一般物件扱いの空き家には、地震保険を付けることができません。建物だけでなく、置いてある家財も「生活用動産」ではなくなるため対象外です
- 逆に、別荘や転勤中の一時空き家など「居住用の建物」として火災保険を契約できる場合は、地震保険もセットできます。境界線は「空き家かどうか」ではなく「居住用として引き受けられるかどうか」です
なお、少額短期保険業者などが販売する「地震補償保険」という商品がありますが、これは政府再保険つきの地震保険とは別物で、地震保険料控除の対象にもなりません。しかも居住用を前提とする商品が多く、一般物件扱いの空き家で確実に使えるとは言えません。地震リスクの高い地域の空き家は、この点も「持ち続けるかどうか」の判断材料になります。
では、空き家はどんな保険に入れるのか — 3つのルート
ルート1: 「一時的な空き家」として住宅用を継続する
転勤で数年空ける、リフォームして戻る予定がある、賃貸募集中——など再入居・利用の予定が具体的にある場合は、保険会社に相談すれば住宅物件として継続できることがあります。当てはまる人はまずこのルートを確認してください。地震保険も維持できます。
ルート2: 一般物件用(企業向け)火災保険に切り替える
完全な空き家の基本ルートです。個人向けの住宅用火災保険で断られた空き家でも、企業向け火災保険(店舗総合保険・企業財産保険など=一般物件扱い)であれば引き受けてもらえる場合があります。ただし損保各社とも個別審査であり、2026年7月時点で「空き家は企業分野で加入できる」と明示した案内は各社公式サイト上に確認できませんでした。実際の可否は取扱代理店にご確認ください。
代理店経由での相談が中心で、建物の状態によっては引受を断られることもあります。老朽化が進んだ空き家ほど入れる保険が狭まっていく、という現実は知っておいてください。
ルート3: 空き家管理サービス付帯型の「空き家専用保険」
近年登場した選択肢として、NPO法人 空家・空地管理センターと日新火災が共同開発した空き家専用保険があります(2024年1月〜)。火災時の解体費用や近隣への失火見舞費用、賠償責任(1億円限度)を補償するもので、同センターの空き家管理サービス(月額2,750円〜の例)に加入すると保険が自動付帯される仕組みです。
注意点として、これは建物を建て直す費用を補償する通常の火災保険とは別物です。「燃えた後の後片付けと近隣への責任」に特化した保険であり、建物自体の再建費用は出ません。管理サービスとセットで「放置しない体制」を作る保険、と理解するのが正確です。
共済はほぼ使えない
都道府県民共済の新型火災共済は、加入者しおりで対象を「人が現に居住している」住宅と定め、除外に空き家・別荘を明記しています。こくみん共済coop(住まいる共済)も対象は人が居住する住宅ですが、2024年4月の商品改定で引き受け可能な空家物件の要件が見直され、更新時に「空家届」を提出して同会が認めた場合に限り契約を継続する運用が導入されています。JA共済の建物更生共済「むてきプラス」は、しおり・約款で建物が引き続き30日以上空家となった場合は引受範囲を超えるものとして契約を解除すると定めています(商品紹介ページやFAQには記載がなく約款レベルの定めのため見落とされがちです)。いずれにせよ「損保がだめなら共済で」というルートは、空き家では基本的に期待できません。
保険料の目安と、空き家の火災リスク
一般物件用で空き家に火災保険を掛けた場合の保険料は、建物の構造・所在地・補償内容によって幅がありますが、民間の試算では年間1万〜6万円程度とされています。住宅物件時代より割高になるのが通常です。
「無人なのだから火事は起きないのでは」と思うかもしれませんが、実態は逆です。消防白書によると、放火(疑い含む)は全火災の約1割を占め、長年出火原因の上位にあります。管理されていない空き家は、放火の標的になりやすく、電気設備の劣化や枯草の堆積など出火・延焼の条件も揃いやすい建物です。
もう一つ知っておきたいのが失火責任法です。空き家から出火して隣家に延焼しても、「重大な過失」がなければ法律上の賠償責任は負いません——が、裏を返すと、管理を放置していた空き家では重過失と判断されるリスクが指摘されています。2023年施行の改正空家対策特措法で「管理不全空家」の区分が新設され、所有者の管理責任は以前より重く見られる方向にあります。建物の保険だけでなく、賠償責任への備え(施設賠償責任保険や前述の空き家専用保険)も検討対象になります。
なお、逆に隣家からのもらい火で自分の空き家が燃えた場合も、失火責任法により相手に賠償を求められないのが原則です。自分の建物は自分の保険で守るしかない——これが火災保険が必要な根本的な理由です。
保険料も「維持費」— 持ち続けるか、手放すかの判断材料に
ここまでの内容を維持費の観点で整理すると、空き家を持ち続けるコストは保険だけでも年1万〜6万円、これに固定資産税(空き家の固定資産税が上がるケースはこちら)、管理の手間や管理サービス費用が毎年積み上がります。しかも建物が古くなるほど、入れる保険は狭まり、放置によるリスクは増えていきます。
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よくある質問
Q. 保険に入らないまま空き家を持っているとどうなりますか? A. 火災・自然災害の損害はすべて自己負担になります。前述のとおり、隣家からのもらい火でも相手に賠償請求できないのが原則なので、「自分は火を使わないから大丈夫」は成り立ちません。加えて、延焼させた側として重過失を問われた場合の賠償リスクも無保険で抱えることになります。
Q. 月に1回、掃除や換気に通っていれば「住宅物件」になりますか? A. 定期的な管理と「居住」は別物です。家財が備え付けられた別荘のように使っている、再入居の予定があるなどの事情がなければ、一般物件と判断されるのが通常です。最終的な判断は保険会社ごとに異なるため、実態を正確に伝えて確認してください。
Q. 空き家専用保険に入れば火災保険は不要ですか? A. 補償の目的が違います。空き家専用保険(管理サービス付帯型)は解体費用・見舞費用・賠償責任が中心で、建物の再建費用は補償されません。建物自体に保険を掛けたい場合は一般物件用の火災保険が必要です。
Q. 相続した実家に親の火災保険が掛かったままです。何をすべきですか? A. 保険会社に連絡し、(1) 契約者・被保険者の名義変更、(2) 建物が空き家になっている事実の通知、の両方を行ってください。片方だけでは、請求時の手続き遅延や保険金不払いのリスクが残ります。
出典(いずれも2026年7月28日に内容を確認)
- 東京海上日動 公式FAQ「空家は契約できますか」 https://faq.tokiomarine-nichido.co.jp/faq/show/2218
- 三井住友海上 公式FAQ(GKすまいの保険・空家の取扱い) https://faq2.ms-ins.com/faq/show/1264
- 損保ジャパン 公式FAQ「THE すまいの保険」空家の取扱い https://faq.sompo-japan.jp/sumai/faq_detail.html?id=80028
- 全国生活協同組合連合会「新型火災共済 加入者しおり」 https://www.kyosai-cc.or.jp/demand2/shiori_pdf/kanyu_k.pdf
- こくみん共済coop 住まいる共済 2024年4月改定のお知らせ https://www.zenrosai.coop/kyousai/kasai/kaitei2024.html
- JA共済 建物更生共済むてきプラス ご契約のしおり・約款 https://www.ja-kyosai.or.jp/okangae/home/pdf/202604_TKS26A.pdf
- 地震保険に関する法律(昭和41年法律第73号)/保険法(平成20年法律第56号)/失火ノ責任ニ関スル法律(明治32年法律第40号)
本記事は情報提供を目的としたものです。保険の引受可否・区分の判断・補償内容は保険会社および個別の物件状況により異なります。記載内容は2026年7月28日時点の各社公式サイト・約款等に基づいており、契約にあたっては各社の最新の約款・重要事項説明書をご確認ください。
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